障害を持つ患者さんへの歯科治療~地域格差と対応のポイント

こんにちは。

 

沖縄で開催されている第41回の日本障害者歯科学会にスタッフの歯科衛生士3名と参加しています!

 

今回は、教育講座として行われた小笠原正先生のご講演内容をもとに、障がいを持つ患者さんへの歯科治療の重要なポイントを分かりやすくまとめました。私たち歯科医療に携わる者として、患者さん一人ひとりの不安を軽減し、最適な治療を提供するためにどのような工夫をしているのかをご紹介します。

 

 

1. 障害者歯科における地域格差

 

障害者歯科には、地域によって治療を受けやすさに差があると言われています。特に、患者さんやご家族が重要視されるのは以下の2点です。

障害に対して理解のある歯科医がいること

自宅から通いやすい場所にあること

 

当院では、これらのニーズに応えられる地域医療の一員として、患者さんとリハビリセンター歯科や大学病院などの高次医療機関をつなぐ「橋渡し」の役割も果たしています。

 

2. 初診時の対応と患者さんの理解

 

初めて診療する際には、患者さんの可能性や適応能力を知るために発達検査を行うことがあります。この検査を通じて、患者さんが歯科治療を受ける準備ができているか(レディネス)を確認します。

過去に歯科治療で嫌な経験をされた場合でも、トレーニングを重ねることで良い経験を積み、治療に適応できる可能性が高まります

発達年齢が3歳2ヶ月以上の場合、治療に対する適応力が高まることがわかっています。

 

3. 痛みを与えない治療への工夫

 

歯科治療において、患者さんに嫌な思いをさせないことは非常に重要です。そのため、以下のような工夫が挙げられます。

 

例)リドカインテープを使用した浸潤麻酔

麻酔前に60%のリドカインテープを5分間貼付し、痛みを軽減します。

麻酔は浅く(5mm以下)、ゆっくり注入(1.8mlを2分かけて)します。

 

当院でも様々な表面麻酔を使用し患者さんが痛みを感じないように工夫しています。

 

笑気吸入鎮静法の併用

治療前に最低10分間、40%の亜酸化窒素(笑気)を吸入します。

初診の患者さんには少しずつ濃度を上げ、慣れている方には40%を10分間吸入してリラックスしていただきます。

 

4. 歯科治療が困難な患者さんへの対応

 

トレーニングが困難な患者さんに対しては、以下の対応を検討します。

 

発達年齢2歳6ヶ月以上の患者さん

麻酔前にドルミカムジアゼパムを使用する場合がありますが、現在当院では鎮静薬による前投薬は安全性の観点から行なっておりません。

笑気吸入(40%)を10〜15分行います。

 

発達年齢2歳6ヶ月未満の患者さん

トレーニング自体が難しいため、ストレスを与えないことを最優先に対応します。

 全身麻酔を行える病院へ速やかに紹介するか、必要性をしっかり検討した上でのレストレーナー(抑制具)の使用を行いますが、原則抑制による治療は行わない方針です。

 

5. かかりつけ歯科医として大切にしていること

 

私たちかかりつけ医は、患者さんにとって最善の医療を提供することを目指し、以下を大切にしています。

1. 定期検診で患者さんの状態を把握する

治療が可能かどうかを判断し、必要に応じて治療計画を立てます。

2. 高次医療機関への紹介

治療が難しい場合は、専門性の高い医療機関へ適切に紹介し、スムーズに治療を受けていただけるようサポートします。

3. 患者さんと医療機関を「つなぐ」役割

患者さんの治療の継続性を確保し、不安を軽減することを心がけています。

 

6. 身体抑制法の慎重な運用

 

原則行わない方針ですが、やむを得ない場合には、身体抑制法を用いることもあります。

そのような状況は次の条件を満たす場合に限ります。

切迫性:治療を急ぐ必要がある。

非代替性:他に方法がない。

一時性:短時間で終了できる。

 

さらに、患者さんとご家族の同意を得たうえで、十分な説明を行います。ただし、何度も述べている通りこの方法は高いリスクを伴うため、地域医療では避けるべきです。

 

まとめ

 

障がいを持つ患者さんに寄り添った歯科治療を行うためには、痛みや不安を軽減する工夫が欠かせません。また、患者さん一人ひとりの状況を理解し、治療の可能性を慎重に判断しながら、必要に応じて高次医療機関と連携することが重要です。

 

私たちは、「患者さんにとって最適な治療を提供する」ことを目指し、日々の診療に取り組んでいます。お困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。