院長ブログ

コラム

口の粘膜の病気について

2020年8月1日高松シティホテルにて香川県保険医協会が主催する医科歯科合同セミナーが開催され、今年度香川大学医学部皮膚科学講座の教授に就任された大日輝記教授の「水疱症と口腔病変」を聴講しました。そこで得られた新知見をまとめ、また当院での粘膜疾患に対する考え方をお話しします。

以下、一般の方にとっては少し専門的なお話になります。最後に当院で経験した症例写真を提示した「まとめ」もありますのでそちらもご覧ください。

「水疱」とは表皮内または表皮下に間隙(かんげき)が生じて漿液(しょうえき)が貯留した状態をいい、先行する病変や障害なしに皮膚や粘膜の糜爛(びらん)、また水疱を生じる一連の疾患群を「水疱症」といいます。天疱瘡(てんぽうそう)や類天疱瘡(るいてんぽうそう)などの自己免疫性水疱症が代表的疾患ですが、見た目だけでは診断がつきづらく治療法の選択が難しいとされ、重症化すると非常に難治性とのことでした。

今回の講演では、病理検査(細胞を調べる検査)採取のコツや診断のアルゴリズム(確定に至るまでの流れ)を詳細にお示しいただきました。治療のポイントにおいては急性期、維持期、再発期に分けて具体的な目標設定をご提示いただき、明日からの診療に直結する新たな知見を得ることができました。

またわたしを含め多数の歯科医師が参加していたこともあり、口腔粘膜における水疱症についても詳しくご講演いただきました。特に金属アレルギーによる扁平苔癬(へんぺいたいせん)や自己免疫性水疱症などの鑑別が困難な場合には、患者さんに身体的、金銭的負担をかけるような状態(皮膚のパッチテストや歯科用金属を除去するなど)になる前に、口腔粘膜生検を行って保険診療で判断できる範囲の検索はしておいたほうがいいとご教示いただきました。しかしながら、それだけでは判断できない場合も多いので、治療を進める中で症状の変化がない、または悪化するような場合には専門機関に相談してほしいと仰っていました。

治療としては初期の症状が軽い状態では、すぐに金属を外すなどの積極的治療をする前にまずはステロイド薬などの外用薬(塗り薬)を用いた治療から始めて、症状を軽快させながら原因を検索していくのが良いと教えていただきました。

講演の最後に「水疱症治療は攻めるも地獄、退くも地獄」と印象に残る言葉をお示しいただき、そうならないためにもなるべく早期の診断・治療が重要であることを再認識できた貴重な時間となりました。

まと

先ほども述べましたが、口腔の粘膜疾患は見た目だけでは判断しづらく、皮膚科で検査を行っても判断がつきづらい症例もあります。実際、当院においても口腔粘膜に痛みや色調の変化がある患者さんがいらっしゃいましたが、近隣の皮膚科で調べて金属アレルギーという診断となり金属を除去したものの症状が良くならないため、総合病院の皮膚科で水疱症の専門の先生に調べてもらった結果、自己免疫性水疱症と診断され九州の専門施設で入院治療を行いようやく症状が軽快したという例があります。

初診時 粘膜の異常や症状はこの時点ではなかった。

症状発症時 歯と歯肉の境目の粘膜が白く変色し、出血を伴う炎症も見られた。
痛みはなかった。近隣皮膚科で金属アレルギーの診断を受け、当院にて金属除去の治療を開始した。
(この時点では自己免疫性水疱症との診断には至らなかった。)

症状悪化時 歯肉が赤く爛れて水疱の破れた跡が見られた。物が触れると強い痛みを訴えた。この後、病理検査にて自己免疫性水疱症と診断され、ステロイドによる専門的な治療が開始された。

症状軽快時 ステロイド治療終了後。接触による痛みはなくなった。現在も経過観察を行っている。金属アレルギーも陽性だったため、口腔内の金属は全て取り除き金属以外の材質に置き換えた。(すべて保険診療)

このように早期に皮膚科医師に相談したものの自己免疫性水疱症との鑑別が困難だった症例もあります。例え最初の時点で診断がつかなくても、この症例のように後に典型的な状態となり診断に至ることもあるので、定期的な経過観察は欠かせません。

この経験や今回の講演で得られた知識を基に、当院では口腔粘膜に異常を感じた患者さんが受診した場合以下の順に治療を進めてまいります。

  1. 症状の確認や写真による記録を行いまずは塗り薬での治療を開始する。
  2. 病状をご理解いただいたうえで近隣の皮膚科、または総合病院にて粘膜の病理検査(細胞・組織の検査)を依頼する。自己免疫性水疱症と診断された場合はそのまま皮膚科にて治療を行う。
  3. 自己免疫性水疱症が否定され、外用薬塗布後も病状が続く場合には金属アレルギー検査を依頼し、歯科用金属にアレルギー陽性となれば金属の除去を開始する。
  4. その後も皮膚科医師の定期的な診察も並行して行っていただき、必要なら再度病理検査を実施する。

繰り返しになりますが、粘膜疾患は見た目だけでの診断は難しく、他科(皮膚科)との連携は必須です。当院では近隣のクリニックをはじめ高松赤十字病院、香川大学医学部付属病院などとの密な連携システムを構築していますのでご安心ください。
また、自己免疫性水疱症の場合、早期の診断、早期の治療開始が重症化を防ぐ最も重要なポイントになります。そのため、金属アレルギーによる金属除去をご希望の方で粘膜異常のある方はみなさま上記の流れで治療を進めさせていただきます。粘膜に異常のない金属アレルギー疑いの方は皮膚科にてすぐにアレルギー検査を行うこととしています。何卒ご協力のほどよろしくお願いいたします。最後までお読みいただきありがとうございました。