お子さんのお口のトラブル -頬粘膜(ほっぺた)への歯ブラシ刺入―
※このブログは実際のお怪我をされた症例の写真を使用しています。そのような写真を見るのは苦手だなと思われる方は閲覧にご注意いただければと思います。
こんにちは、院長の三木です。
先日のブログではお子さんのお口の中、特に歯ぐきのポケット内に異物が迷入してしまうという健康被害についてお知らせしました。
本日もお子さんのお口の中で起こるトラブル(事故)として、わたし自身が経験した歯ブラシが頬っぺたに突き刺さってしまった症例についてお話しします。
これは今から14年ほど前、わたしが歯科医師になって一年目の冬、当時研修医として勤務していた大学病院でのことでした。大学病院の歯科は口腔外科と呼ばれるお口のけがや難しい親知らずを抜去することを専門としていました。特に夜間や休日に口元の事故が発生した場合には、このような専門機関にて処置を行うことが一般的です。この日わたしは救急当番で、指導医とともに緊急搬送された患児の対応に当たりました。
搬送されてきた5歳の患児を見て驚きました。歯ブラシが左の頬っぺたの内側に突き刺さっていたのです。(写真1)歯ブラシを口にくわえたまま転倒し刺さってしまったので、すぐに救急車を要請したとのことでした。お子さんは茫然としているようで暴れたりはしていませんでした。
わたしと指導医は、まず可能な範囲でお口の中を確認し、特別目立った出血はないこと、幸運にも強い痛みは訴えていないこと、患児自体が比較的落ち着いていることなどから、冷静に状況を把握することとし、このままの状態でCTによるレントゲン撮影を行いました。その結果、歯ブラシが頬の粘膜を突き破り、筋肉と筋肉の隙間に位置していることがわかりました。と同時に、歯ブラシの破損がないこと、歯ブラシ周辺に出血や気腫(歯ブラシ刺入と同時に空気が入り込んで大きく腫れること)がその時点ではないことを確認することもできました。 写真の矢印で示した部分が歯ブラシです。(写真2、3、4)白く映っているところは毛束を固定する金具であることが後にわかりました。(写真5、6)
全ての状況を把握してご家族に説明し、その後局所麻酔下に慎重に歯ブラシを抜去しました。予想通りほとんど出血はなかったものの粘膜に大きな裂け目ができていたので縫合処置を行いました。処置後は歯ブラシに付着した口腔細菌による傷口の化膿を防止するために数日間入院して抗生物質の投与を行いました。大きなトラブルなく順調に回復し、すぐに退院することができました。その後も特に後遺症は報告されていません。
この症例は、入院治療を伴う重症例ではありましたが、大きな血管や骨を傷つけることがなかったため、後遺症もなく順調な経過をたどりました。しかし、過去には竹串や割り箸をくわえたまま転倒し、脳が損傷し不幸にもお亡くなりになられた例もあります。
今回の症例によって歯ブラシのように丸みのある物体ですら粘膜を突き破って刺さることがあるのだとわかりました。竹串やお箸に関してはもちろんのこと、お子さんが歯磨きをしている時も歯ブラシをくわえたまま動き回らないように注意して見守る必要があると強く感じました。
このような事故は知っておくことで防げることもあると思います。
情報をシェアすることで、少しでも事故に遭われる方が減少することを願っています。
この症例に関しては2008年に日本小児口腔外科学会という雑誌に症例報告として論文投稿しました。以下のURLから全文を無料で読むことができます。ご興味のある方はぜひご覧ください。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/poms1991/18/2/18_2_105/_article/-char/ja
次回は、乳幼児の転倒による歯の脱臼(抜けてしまうこと)についてお話しする予定です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後もみなさまの健康のために有益な情報をシェアしていきたいと思います。